酢の歴史~酢づくりのはじまりから現代に至るまで

お酢を知ろう

お酢の看板

お酢は、人間が手がけて作り出した最古の調味料と言われています。塩や砂糖は人間が作り出したというよりも、天然で存在するものを利用してきました。しかし、お酢は、塩や砂糖のように自然にあったものではありません。人が、全く違う形のものから作り出した調味料なのです。

酢の起源と語源

酢の起源はお酒と並んで、非常に古く、一説では一万年前ごろから存在したと推量されています。現存する最も古い記録は、紀元前5000年ごろの古代バビロニアの記録。食酢についての記載があります。それによると、5000年前の食酢は、ナツメヤシの酒や干しブドウのワイン、ビールなどからつくられた酢であったそうです。

13代目

古代バビロニアといえば、世界史で一番最初に勉強する世界四大文明のメソポタミア文明の国家ですね。

農耕の発達によって、国という人集団組織がつくられた中で、農耕以外の仕事をしている人も含めて、みんなが食べていくためには、食べものを保存する必要がありました。当時の人たちにとって、ぶどう果汁を発酵させたワインは貴重なもの。ワインを大事に保存したつもりが、いつの間にか酸っぱくなってしまった!なんてことがあったのかもしれません。

そうです。お酢は、お酒から作られます。「酢」の漢字をみても、「酉(さけ)」で「乍(つくる・作る)」となっています。英語では食酢のことをビネガー (vinegar) といいますが、その語源はフランス語のビネグル (vinaigre) で、これは「vin (ぶどう酒) + aigre (酢っぱい)」すなわち「酸っぱいワイン」という意味の言葉になります。

この2つの単語の語源からみても、酒づくりの技術の発達とともに、自然発生的に酢が誕生したのではないかと考えることができそうです。

他にも、旧約聖書に食べ物を酢に浸して食べる場面があったり、古代ギリシアの医者ヒポクラテスは治療に酢を用いたり、患者に酢卵を飲ませたりしたそうです。咳止めに酢とハチミツを用いたとか、エジプトの女王クレオパトラが真珠を酢に溶かして飲んだとか、伝説のような話が伝わっています。これらのことから、お酢の殺菌作用や溶解作用が、すでに知られていたことがわかります。

日本の酢づくりのはじまり

日本のお酢といえば、米を原料としてつくられた米酢です。日本に酢づくりの技術が中国から伝わったのは4~5世紀、応神天皇の時代。酒づくりの技術とともに伝えられたとされています。しかし、今日本で使われている種麹と、中国のものは違うので、酒づくりの中から、自然に日本の酢づくりも生まれ、中国の技術も加わったと考えるのが自然な流れかもしれません。

米酢のつくり方は古文書『延喜式』に記載されていて、「酢一石を造るためには、米六斗九升、よねのもやし(麹)四斗一升、水一石二斗を用いる。六月に仕込んで、十日目毎にかもし、これを四度くりかえして成る」と書かれています。

以後、酢造りは、「造酒司(さけのつかさ)」という役所で国家の仕事として管理されたり、『和名類聚抄』などの辞書的な古文書に「酢」「吉酢(よしず)」「酢滓(すおり)」「糟交酢(かすこめず)」「市酢(いちず)」などの食酢に関わる用語として取り上げられたり。

中世の宴席では、調味料として醤・塩・酢・酒の4つの小皿が置かれ、客は干しものや生ものを、これにつけて食べたと言われています。お酢は、川魚の生臭みをとりのぞくことができ、保存もできて、魚を風味よく食べることができるので、高貴な人の間で重宝されてきました。

江戸時代は粕酢の時代。お酢の醸造法が大きく発展する

江戸時代になると、米酢は大量生産されるようになりました。和泉酢や半田酢、北風酢など各地の名産地のお酢が問屋によってどんどん売られていきました。そんな中、江戸後期に登場したのが粕酢です。愛知県半田市の初代中埜又左衛門によって開発された画期的な食酢です。

日本酒といえば、当時は麹や蒸し米をふくんだにごり酒でした。江戸時代になって、にごり酒をろ過した澄んだ酒(現代の清酒) のほうが香り、味、保存性もよいということで、しぼって清酒と酒粕をわけるようになりました。その酒粕を使って造ったものか粕酢です。

江戸の日本酒人気が高まるにつれ、酒粕も大量に生産され、その酒粕から造る粕酢は、江戸前の握りずしに利用され、一大流行しました。粕酢は、米酢にくらべると甘みが強く、しかも独特のうまみと香りがあるのが特徴です。色合いがやや赤みを帯びているので、「赤酢」とも呼ばれました。

私ども、とば屋酢店の創業は1710年頃と言われており、粕酢が開発されるより昔の流れをくむ製法でお酢を醸造していると言われています。日本のお酢の文化を調査されている大学の研究者の先生からは、当店の製法は江戸時代徳川家康にも献上されていた中原酢の製法にとてもよく似ていると教えて頂いたことがあります。当店の製法や歴史的な由来については、また別の記事で詳しく考察してみたいと思います。

明治・大正は合成酢の時代

文明開化によって、お酢造りの世界にも、科学技術・知識が加わると、アルコールを原料としたアルコール酢がつくられたり、氷酢酸を原料とした合成酢がつくられるようになりました。

食糧事情の悪化により、酢の原料であるお米を手に入れるのが困難になったことが背景にあったと言われています。また、戦時中は、食酢の原料として米を使用することが禁止されていました。第二次大戦後、食糧事情がよくなると、米酢の製造は復活し、穀物酢などもつくられるようになりました。

私どもとば屋酢店も、その時代、さまざまな影響を受けたと聞いていますが、何とか乗り切り、小さいながらも昔ながらの製法で米酢の醸造を続けてきたと聞いています。当時の様子は、とば屋酢店の歴史でも詳しく紹介しています。ぜひ、ご一読ください。

日本人の食生活の変化とバラエティ豊かな現代のお酢

近年、日本人の食生活は欧米化し、新しい調味料がたくさん開発されています。海外からはワインビネガーやりんご酢などの果実酢も輸入されるようになりました。マヨネーズやドレッシングといった酢を原料の一部に使う調味料も増えました。とば屋でも、味付ポン酢和風ドレッシングなどの調味酢は、とても人気があります。

また、健康意識の高まりに伴って、お酢のチカラも大きく見直されており、お酢の楽しみ方も多様化しています。バラエティ豊かな調味酢と、変わらず守り続ける伝統の味。その両方を、現代の皆さまに届けられるよう、これからも、美味しいお酢造りを続けていきます。

【参考文献】
小泉武夫著『醬油・味噌・酢はすごい 三大発酵調味料と日本人』中公新書【ISBN:9784121024084】
河野友美著『酢で健康』保育社【ISBN:4586506903】
柳田 藤治編『酢の絵本』農山漁村文化協会【ISBN:4540052004】

中野 貴之

中野 貴之

酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目

「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。

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