食べ物・飲み物の味と温度の関係

お酢を知ろう

食べ物・飲み物の温度と味覚の関係

味覚は非常に複雑で、さまざまな要素に影響されます。その一つが、温度です。食べ物・飲み物の温度は、味の感じ方に大きな影響を与えます。

味と温度の関係を念頭に置いて酸味・甘味・塩味を上手に組み合わせれば、お酢をより美味しく楽しむことにつながるはずです。この記事では、各味覚と温度の関係、そして酢の酸味と組み合わせたときの関係について詳しくまとめました。

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酸味:温度による変化はない

酸味の感じ方は、温度によってあまり変化しません。温めた酢ドリンクでも、冷たい酢の物でも酸味は変わりません。酸っぱいものは酸っぱいです。

ただし、加熱をすると酢酸は揮発しやすくなるので、空気中に飛んでしまい、絶対量が少なくなって酸味が減ることは考えられます。酢酸以外の有機酸(クエン酸や乳酸など)は、不揮発性なので減りません。

甘味:体温に近い温度で強く感じる

甘味の感じ方は体温に近いほど強く(30℃くらい)、低温・高温になるほど弱くなります。これは、舌の甘味を感じる受容体が、人間の体温に近い温度で活性化するからです。つまり、甘さと感じるセンサーがよく働くということです。

このため、ジュースやアイスクリームなどの冷たいスイーツには、甘みを感じられるよう、より多くの糖分が使われる傾向にあります。ぬるくなったジュースやアイスクリームは、冷たい時よりも甘ったるく感じるはずです。

また、味覚受容体(センサー)の話とは別に、糖そのものの構造の変化によって甘味が変わるものもあります。それが果糖(フルクトース)です。酢ドリンクでよく使われる果糖とショ糖について、もう少し詳しく取り上げます。

果糖は冷たい方が甘味が強く、ショ糖は温度変化しない

ハチミツ・果物に多く含まれる果糖は、低温の方が甘みを強く感じます。果糖には、甘味の強さが異なる2つの結晶型があり、冷やすことで、甘味の弱い型から強い型に変化します。結果、全体の甘味が強くなるのです。

とば屋酢店の「お酢蜜」は、純米醸造酢「壺之酢」とアカシア蜂蜜だけをブレンドした飲むお酢です。アカシア蜂蜜の糖組成は、果糖>ブドウ糖>ショ糖の順に多いため、お酢蜜は冷やして召し上がる方が甘味を感じやすいでしょう。
※参考1:ハチミツの成分特性

果物の中でも、果糖の多いフルーツとして有名なのが、りんごです。りんごジュース割りをする時も、冷やした方が甘味を感じやすくなります。

ショ糖(スクロース)は、いわゆる砂糖で、冷たくても温かくても甘味の強さは変わりません。ちなみに、果実酢づくりでよく使われる氷砂糖は、ショ糖の結晶です。氷砂糖で漬けた果実酢の場合、ホットドリンクでも十分に甘味を感じることができます。

とば屋酢店の飲む酢「梅の酢」と「しそ酢」は氷砂糖を使用しています。とくに、梅の酢のお湯割りは、個人的におすすめなので是非試していただきたいです。

酸味と甘味の味の相互作用

酸味と甘味を組み合わせると、酸味が弱まり、まろやかになります。このような味の相互作用を「味の抑制効果」といいます。酢ドリンクの美味しさは、酢酸と他の成分、とくに甘味とのバランスが鍵です。各素材の特徴を理解して、美味しい飲み方を追求していただけると嬉しいです。

塩味:冷たいほど強く感じる

塩味は、温度が低くなるほど強く感じます。温かい汁物でおいしいと感じたものが、冷めてしまうと塩辛く感じた経験のある方もいらっしゃると思います。

酢の物の調味液やサラダドレッシングはよく冷やしておくと、少しの量で塩味を感じることができます。一方、酢の物の具やサラダの野菜は、素材の甘味を活かすために、冷やしすぎないようにしましょう。和えるのは、食べる直前がベストです。

酸味と塩味の味の相互作用

酸味と塩味を組み合わせると、酸味が弱まり、まろやかになります(味の抑制効果)。また、うす塩味のものに、少し酸味を加えると塩味を引き立ちます。これを「塩味の増強作用」といいます。

健康のために減塩は欠かせないものです。酸味・温度を上手に活用すれば、少量の塩で美味しさを追求できるはずです。

苦味:高温では感じにくい

苦味は、低温~体温程度の温度では強く、高温で感じにくくなります。これは、冷めたコーヒーがより苦く感じられる理由です。

珈琲に砂糖を入れると苦味がやわらぐ

苦味と酸味の相互作用については、とくに報告されていません。苦味は、甘味と合わせると抑制されることがよく知られています。コーヒーに砂糖を入れると、苦味が弱くなって飲みやすくなります。

うま味:体温付近で最も感じやすい

うま味は甘味と同じく、体温に近い温度(30℃くらい)で強く感じられます。また、低温・高温になるほど弱くなります。

うま味の場合、素材からうま味成分であるグルタミン酸やイノシン酸を上手に引き出して、絶対量を増やすことの方が重要だと思います。さらに、単独よりも、複数の成分を組み合わせることで、うま味が飛躍的に強く感じられる『うま味の相乗効果』がありますので、複数の出汁素材を取り入れるのがおすすめです。ちなみに、うま味と酸味の味の相互作用はとくに報告されていません。

コラム:代表的な出汁素材のおすすめ調理条件

以下の表では、代表的な出汁素材のおすすめ調理条件を簡単にまとめています。うま味成分を多く抽出しつつ、できるだけ余計な雑味成分を引き出さないように導き出された方法です。

出汁食材主なうま味成分上手に引き出す方法
昆布グルタミン酸60℃で1時間浸漬する
※2
かつお節イノシン酸沸騰水に3%重量の削節を入れ、直ちに加熱を止め、3分後に炉過する
※3
干し椎茸グアニル酸冷水(5℃)で5時間浸漬して水戻し→60~80度で20分程加熱
※4

【参考文献】
※2:京料理における一番だしのグルタミン酸含有量と香気成分について, 成瀬ほか, 2003
※3:カツオブシの品質-I試料の調製―ダシのとり方, 大石ほか, 1959
※4:シイタケ中のグアニル酸に関する研究, 黒須・岩黒, 2008

温度を活かして美味しさを追求して

この記事では、酸味・甘味・塩味・苦味・うま味の5つの基本的な味覚が、温度によってどのように変化するかを紹介しました。料理において温度を意識することは、食材がもつ可能性を引き出し、さらなる美味しさを追求することにつながります。

温かい料理では、うま味や甘味がより際立ちます。
冷たい料理では、とくに塩味が強く感じられます。
また、お酢の酸味は、他の味覚とのバランスを取ることで、料理に深みや複雑さを与えてくれます。温度と味の相互作用を意識し、皆さんの日々の食事を豊かな味わいで満たすことにつながれば幸いです。

中野 貴之

中野 貴之

酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目

「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。