雪室熟成のお酢は何が違う?驚きのまろやかさの秘密

お酢を知ろう

上根来集落雪室熟成壺之酢(純米酢)出荷開始 夏季限定 雪の力が育んだまろやかさに驚き

とば屋酢店から夏季限定で発売される「雪室熟成 壺之酢」は、福井県小浜市の上根来地区にある雪室で約半年間熟成させた、とても珍しい商品です。通常の壺之酢でも「ツンと来ない。まろやか」とお客様からの感想をお寄せいただきますが、雪室熟成酢はさらにまろやかと評判で、毎年販売を待ち望んでくださる方々も増えています。

この記事では、雪室熟成 壺之酢の魅力と、そのまろやかさの秘密を皆さんにご紹介します。

とても稀少な雪室熟成のお酢

皆さんは、雪室(ゆきむろ)をご存知でしょうか。雪室とは、雪でつくられた天然の冷蔵庫といわれます。電気冷蔵庫が登場する前、日本では明治時代から、天然の氷を保管する氷室(ひむろ)や雪を貯蔵する雪室を使って、その雪氷を冷却材として利用していました。(※参考:日本における氷室・雪室の歴史文化とその現状

なかでも雪室は、積雪の多い地域に設けられました。日本海側の新潟県や北陸地方の富山・石川・福井県でよく利用されており、雪国の食文化の一つを形作っていました。しかし、家庭用電気冷蔵庫の普及とともに、氷室・雪室の伝統は忘れられていきました。

6月、上根来の雪室の外観。ブルーシートの下の雪はだいぶ解けて、嵩が減っている

福井県小浜市上根来(かみねごり)の雪室は、平成25年に地元の人々によって立ち上げられました。標高300mの高地にある上根来集落は、豪雪地域で、多い年には積雪が2mを越えることもあります。この雪氷熱エネルギーを利用して食材を保存・熟成させようと試行錯誤を繰り返してきました。上根来プロジェクトのホームページに詳しく紹介されているので、ぜひご覧ください。

雪室に保存する食材は通常、生鮮野菜やお酒、コーヒー豆が中心です。その中で、お酢の雪室熟成は全国的にも非常に珍しい試みといえます。とば屋では、もともとお酢の熟成に興味があり、純米酢を雪室で貯蔵してみたところ、雑味がとれて、さらにまろやかになりました。

基本的に、お酢は酢酸菌の発酵の都合上、約30℃の温度を維持し続ける必要があります。そのため、暖かい地方で生産されることが多いです。福井県小浜市にあるとば屋酢店では、寒さに負けないよう、壺のまわりにもみ殻を敷き詰めて保温して酢酸発酵を行っています。積雪の多い小浜市でお酢づくりを続けてきたからこそ、雪室熟成という貴重な縁に恵まれたと感じています。

雪室で熟成させると何が変わるのか

農産物・加工品を貯蔵する目的でつくられた雪室では、温度が安定しており、高湿度で、振動のない静置状態を維持することができます。これらの条件下で、生鮮野菜・果実・酒・酢などを長期保存し熟成させると、成分が変化して、甘味や旨味成分が増えるといわれています。

低温・高湿度環境を保つことができる

雪に覆われた室内は、常に2℃程度でほぼ一定に保つことができます。一方、冷蔵庫の場合、温度センサーによって冷却装置が働くという構造をしています。例えば、冷蔵庫のドアを15秒間開けると、元の温度に戻るのに10分くらいかかります。したがって、扉の開け閉めなどによって高温になったり、冷却装置によって冷やされたりして、温度に揺らぎが生じてしまいます。この温度差の影響で、食品の細胞が傷みやすくなるといわれています。

湿度の高い雪室の中で貯蔵したお酢の瓶はしっとり濡れている

また、雪室は湿度80%以上を維持しており、食品の乾燥を防ぎ、鮮度を維持します。つまり、雪室は、低温・高湿度環境を維持することで、貯蔵している食品にストレスを与えず、新鮮さを保持したまま、保存することができるのです

振動のない、静置熟成

雪室の中に入ると、音のない静寂が広がっています。雪は音を吸収しやすいため(※参考:積雪の音響特性)、雪で覆われた雪室の中には音による振動がありません。また、雪という自然のエネルギーをつかっているため、電気の振動もなく、温度の変化もありません。外からの影響を受けない静置状態に置かれた食品は、熟成して、ゆっくりと変化していきます。

お米や野菜はデンプンの糖化により甘さが増し、二日酔いの臭いともいわれるアルデヒド成分を分解したり、たんぱく質が分解されてうまみ成分であるアミノ酸に変化したりします。とば屋の壺之酢も、熟成によって有機酸・アミノ酸などの化学組成が変化し、なめらかな口あたりと、まろやかな味わいが増します

自然資源をつかった雪室で地域の元気にしたい

今年の雪室熟成酢の取り出しの際、上根来プロジェクト代表の鳥居さんにお話を伺いました。雪室熟成の秘密や、他地域の雪室から学んだこと、その他さまざまなことを教えていただきました。

その中で特に印象的だったのは、上根来の集落にある自然の資源を活用するという鳥居さんのこだわりです。体育館のような大きな設備で巨大な雪室を作っているところもありますが、上根来の雪室は、かつて牛舎だった場所に、里山の間伐材を使って作っています。地域の自然を活用し、新しい価値を創出する。そんな想いで始まった雪室プロジェクトは、今や、多くの人々に待ち望まれる商品を生み出しています。

自然の力、雪の力を利用して酢を熟成するという、雪国のお酢屋の挑戦。そして、里山を活用して地域の魅力を引き上げたいという想い。これらが集約された雪室熟成 壺之酢を、ぜひ一度、ご賞味ください。

中野 貴之

中野 貴之

酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目

「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。

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