酢酸の代謝~お酢を飲んだら体内でどんな働きをするのか

お酢を知ろう

酢酸の代謝~お酢を飲んだら体内でどんな働きをするのか

食酢の主成分である酢酸は、私たちの体の中でとても重要な役割を果たしています。この記事では酢酸が体の中でどんな働きをしているのか、すなわち『酢酸の代謝』についてお伝えします。聞きなれない言葉も出てくると思いますが、できるだけ分かりやすく解説します!

酢酸は必須の栄養素ではない。なぜなら体内で生成できるから

栄養素というと、糖質(炭水化物)・脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラルの五大栄養素がよく挙げられます。五大栄養素とは、人が食品から摂り入れる体に欠かせない栄養素です。実は、酢酸はこれらの五大栄養素の中には含まれていません。国立循環器病研究センターの栄養に関する基礎知識のページをみても「酢酸」の文字はどこにもありません。

しかし、酢酸は体内でとても重要な働きをします。当然疑問が湧いてきますね。

Q. なぜ体内で重要な働きをするのに、酢酸は五大栄養素の中に含まれないのでしょうか。
A. 酢酸は、他の栄養素をもとに、体内で生成することができるからです。

具体的にいうと、肝臓などの人間の臓器では、食事から摂取されたさまざまな栄養素が利用され、中間的な代謝産物として酢酸が生合成されます。この酢酸は、さらに体内で利用されたり、分解されたりして代謝されます。

さらに、人間の腸内にいる細菌も酢酸などの有機酸も生成します。これが酢酸の、別の供給源となっています。

大腸で生成される腸内細菌由来の酢酸

酢酸の化学式はCH3COOH。炭素数が2の短鎖脂肪酸です。

脂肪酸とは、油脂を構成する成分のひとつで、数個から数十個の炭素が鎖のように繋がった構造をしています。そのうち炭素の数が6個以下のものが短鎖脂肪酸と呼ばれ、酢酸、プロピオン酸、酪酸などが含まれます。

短鎖脂肪酸|健康用語の基礎知識|ヤクルト中央研究所

酢酸をはじめ、炭素の数が6個以下の短鎖脂肪酸は、大腸の中にいる微生物(ビフィズス菌などの腸内細菌)から生成されます。もととなるのは、小腸までに消化・吸収できなかった”ヒトが食べたモノの残りかす”。すなわち、難消化性や水溶性の食物繊維やオリゴ糖です。これらは、ブドウ糖などの単糖が、たくさん結合したものです。

大腸内細菌は数百種以上といわれており、その活動の実態は非常に多様で複雑なものですが、一例として、ビフィズス菌の発酵の反応式をご紹介します。ブドウ糖(グルコース)2つから、乳酸と酢酸を生成しています。

ビフィズス菌の反応式
2C6H12O6 (ブドウ糖) → 3CH3COOH (酢酸) + 2CH3・CHOH・COOH (乳酸)

大腸内細菌によって生成された酢酸の吸収ルートは大きく分けて3つ。15%くらいが大腸の表面の上皮細胞でエネルギー源として消費されます。残りは、血流(門脈)に乗って肝臓へ、さらには筋肉、腎臓などの末梢組織でエネルギー源や脂肪を合成する材料として利用されます。

13代目

それぞれ場所で酢酸がどのような働きをしているかは、もう少し後で、一つずつ取り上げますね

口から摂取した酢酸は小腸上部までに速やかに吸収される

次に、食酢を口から摂取した場合について考えてみましょう。調味料や飲料としてヒトの口から体内に入ってきた酢酸は、食道、胃、小腸上部までの間に、ほぼすべて、速やかに吸収されます。つまり、大腸に到達する前に、吸収されるということです。

動物試験によると、経口投与された酢酸水溶液(150ml)によって、門脈や動脈の血清中で10分後に酢酸濃度の上昇が認められたものの、30分後には元のレベルに戻ったという結果が発表されています。このことは、酢酸の体内での吸収・代謝がすぐに行われることを示しています。

ここまでの情報を整理します。人体に関わってくる酢酸は大きく分けると以下の3つ。

  • 体内で肝臓などで生合成される酢酸
  • 腸内細菌由来の酢酸
  • 口から摂取した酢酸

肝臓などの臓器で、食事から摂取されたさまざまな栄養素をもとに、中間的な代謝産物として酢酸が生合成されます。

また、大腸にいる腸内細菌たちにより、酢酸が生成されます。この酢酸は大腸細胞で消費され、残りは肝臓、そして血流に乗って全身の細胞に運ばれ、消費されます。

調味料や食酢飲料などで経口摂取した酢酸は、小腸上部までに速やかに吸収され、肝臓、全身の細胞に運ばれ、消費されます。

酢酸の体内での3つの働き

次は、酢酸が吸収された後、どのように働いているのかを3つご紹介します。

①大腸の上皮細胞でエネルギー源となる

腸内で生成された酢酸は、大腸上皮細胞(大腸の表面を覆っている粘膜部分)のエネルギー源となります。大腸の粘膜は、血管から供給されるエネルギーよりも、腸管腔から供給される短鎖脂肪酸のエネルギーに依存していることがわかっています。

また、上皮細胞の増殖を促して新陳代謝をよくしたり、粘膜の分泌、水やナトリウムなどのミネラルの吸収を促す働きもしています。これは便通や腸管の修復など腸の健康を保つことにつながります。

※参考文献
腸内細菌が作り出す短鎖脂肪酸のちから~注目される酪酸菌~, アリナミン製薬株式会社

②門脈を経て肝臓で脂肪を合成したり、アセチルCoAに代謝される

門脈とは、胃・小腸・大腸などで吸収した栄養素たっぷりの血液を肝臓に運ぶ、特別な血管(静脈)です。肝臓は血糖を調節したり、体に必要な栄養素を貯蔵しておいたり、有害な物質を解毒したりする臓器です。

酢酸は門脈を経て肝臓に運ばれたあと、アセチルCoAシンテターゼとよばれる補酵素によってアセチルCoAへと変換されます。アセチルCoAは脂肪を合成したり、クエン酸回路(TCAサイクル)を経て二酸化炭素と水に完全分解され、エネルギーとなります。

※アセチルCoAシンテターゼ:酢酸をエネルギー産生に必要なアセチルCoAに変換するための酵素

クエン酸回路は、細胞がエネルギーを生産する際の重要な過程であり、この過程を通じて、食べ物から得た栄養素が最終的にエネルギーに変換されます。1937年にドイツの化学者ハンス・クレブスによって発見され、この功績により1953年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

ここでは詳細を取り上げませんが、とても効率よく、エネルギーを取り出すことができる代謝のかたちと理解していただければOKです。

③全身の筋肉、腎臓などの末梢組織でエネルギーや脂肪を合成する材料として利用される

②で紹介したクエン酸回路は、ほぼすべての細胞に存在する「ミトコンドリア」という細胞内小器官で行われます。ミトコンドリアは「細胞のエネルギー生産工場」ともいわれており、細胞の生存・働きにはエネルギーが不可欠です。

つまり、全身の細胞が働き続けるためには、各々の細胞内にあるミトコンドリアにおいて、クエン酸回路で次々と反応を続け、エネルギーを獲得することが必要です。

酢酸は、血液によって全身をめぐります。そして、全身の筋肉や腎臓などの各細胞で、アセチル-CoAシンテターゼと反応し、アセチルCoAを生成します。このアセチルCoAが、クエン酸回路における中間代謝物として利用されるというわけです。

まとめ

酢酸は、アセチルCoAと変換されることで、脂質・糖質代謝の重要な中間代謝産物となり、身体の機能に様々な影響を及ぼします。

今回は「代謝」というキーワードを中心に説明しました。酢酸は、免疫系や血管への影響も研究されており、まだまだ分かっていないことがたくさんあります。さまざまな可能性が広がっていて、お酢について知れば知るほど面白いです。専門的で説明の難しい領域ですが、みなさんのお酢の健康機能への理解が深まる一助となれば幸いです。

難しい!もっと詳しく説明して!などのフィードバックもお待ちしています!

※参考文献
山下広美,酢酸の生理機能性,日本栄養・食糧学会誌,2014,67巻,4号,p.171-176
多山賢二他,特開2002-255801
・酢の機能と科学-酢酸菌研究会-朝倉書店【ISBN:9784254435436】

中野 貴之

中野 貴之

酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目

「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。

関連記事

飲みやすいお酢でも容量用法は守ることが大切

お酢を知ろう

お酢の過剰摂取のデメリットと推奨摂取量について

お酢が体によいと聞いて、とにかく大量に飲みたい・摂取したいと考える方のために、一日の推奨摂取量やお...

続きを見る

酢と血糖値の関係

お酢を知ろう

お酢と血糖値の関係・メカニズム

古来より、お酢は薬用や病気の治療に用いられ、健康をサポートするものとして経験的に知られてきました。...

続きを見る

高めの血圧を下げる、お酢の効果

お酢を知ろう

高めの血圧を下げる、お酢の効果

お酢には、さまざまな健康効果があります。なかでも、特に注目されているのが血圧降下作用です。お酢には...

続きを見る

魚の骨ごと食べてカルシウムたっぷりの南蛮漬け

お酢を知ろう

カルシウムを吸収しやすくする酢を使って効率よく栄養補給しよう

酢は昔から薬としても使われていたように、さまざまな効果・効能を持っています。その特性のひとつが、カ...

続きを見る

お酢の「体脂肪を減少させる効果」に切り込んだ研究論文を解説

お酢を知ろう

お酢の「体脂肪を減少させる効果」に切り込んだ研究論文を解説

食酢のさまざまな栄養効果のなかでも、特に注目されるのが「食酢の肥満への効果」です。この記事では、お...

続きを見る

酢とダイエットの関係

お酢を知ろう

お酢とダイエットの関係

今回は、ご購入後アンケートでいただいたテーマ「お酢とダイエットの関係」に切り込んでいきます。 ...

続きを見る