果実酢づくりに氷砂糖を使うのはなぜ?代用は?減らしてもいいの?

初夏は、フルーツをお酢に漬け込む「果実酢づくり」の最盛期!自家製の果実酢は、ソーダ割りやドレッシングなど、さまざまなアレンジも楽しめるのが魅力ですね。基本のレシピは、果実200g+氷砂糖200g+純米酢(壺之酢)300ccを保存瓶に入れて漬け込むだけ。とても簡単です。
ここで登場する「氷砂糖」。フルーツ酢や果実酒づくりでしか使わないため「わざわざ買うの?」「グラニュー糖やザラメで代用できないか」と考えている方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、果実酢に氷砂糖を使う科学的な理由を解説し、代用品の可否や甘さを調整するためのヒントもご紹介します。氷砂糖の役割がわかれば、レシピのアレンジを自信をもってできるようになりますよ!
氷砂糖は高純度のショ糖の結晶
氷砂糖は、ショ糖(スクロース)を高純度で結晶化させたものです。ショ糖は、化学的にいうと、ブドウ糖(グルコ-ス・単糖)と果糖(フルクトース・単糖)が結合した二糖類で、クセがなく最も好ましい甘さをもつ物質と言われます。果糖は冷たいと甘さを感じにくくなりますが、ショ糖は、温度変化による甘さの変化がないのも特徴です。

氷砂糖は、いろいろな砂糖の中で最も純度の高い大きな結晶です。表面積が小さいため、ゆっくりと時間をかけて溶けていきます。この「ゆっくり溶けるという性質」が、果実の成分をじっくり引き出すのに役立ちます。
ちなみに、氷砂糖には2種類あります。ゴツゴツした不揃いなロックタイプと、大きさの均一な16面体クリスタルタイプ。それぞれ製法が異なるのですが、ロックの方が表面積が大きく、水に溶けやすいです。「表面積が大きい=外液と接する面積が大きい」ので、溶けやすさと表面積の大きさは比例します。
※参考:全日本氷糖工業組合
氷砂糖による果実エキスの抽出ステップ
氷砂糖を果実酢に使う一番の理由は、浸透現象を利用して果実のエキスをゆるやかに引き出すためです。浸透とは、濃度差を均一にしようとする力によって、薄い方から濃い方へ、水分が半透膜を通って移動する現象です。この濃度差を均一にしようとする力を「浸透圧」といいます。果実酢づくりにおいては、果実の細胞膜が半透膜として働きます。
氷砂糖がゆっくり溶けていくことで、瓶の中では次のような変化が段階的におこります。
Step 1|瓶詰め直後、酢が果実の内部に染み込む
瓶詰め直後、氷砂糖はまだ溶け出しておらず、外液(酢)はほぼ無糖状態です。一方、果実の内部は果実自身が持つ糖が多く含まれており、外液よりも糖濃度が高い状態。この濃度差を解消するため、お酢が果実の細胞膜を通って内部に浸透していきます。このとき、果実は少し膨らむことがあります。
Step 2|果実内部の酢液に、エキスが溶け出す
酢が染み込んだ果実内部では、香りや味の成分がじわじわと溶け出します。これらの果実エキスは、細胞内の「液胞」と呼ばれる小器官に多く含まれています。液胞は、栄養を貯蔵したり、水分量やpHバランスを調整する役割を担っています。
果実エキスには、アミノ酸・有機酸・タンパク質・糖・酵素・アントシアニン色素といったさまざまな物質が含まれています。水に溶けやすい成分はすぐに溶け出しますが、中には、酵素の働きで分解されて水に溶けやすくなるものもあります。
Step 3|氷砂糖が溶けて、外液の糖濃度が上がる
時間が経つにつれ、氷砂糖がゆっくりと外液に溶けていき、糖濃度が上がっていきます。すると、今度は、外液の方が果実内部よりも濃くなり、濃度差が逆転。果実内部から水分が外に移動し始めます。この水分には、果実エキスの水溶性成分や有機酸が含まれています。
Step 4|果実は水分が抜けてしわしわに
氷砂糖が完全に溶け切るまで、外液の糖濃度は高いまま維持され、果実の水分はどんどん外に流出します。結果として、果実はシワシワの脱水状態になることも。
漬け込み時間が長くなると、果実の細胞膜や細胞壁の構造も次第に崩れていき、柔らかく、もろくなっていきます。ずっと漬け込んでいても大丈夫ですが、果実の見た目が気になる方は取り出します。
氷砂糖のもう一つの重要な役割:飲みやすさと保存性の向上
氷砂糖は、果実の風味を引き出すだけでなく、飲みやすさと保存性を高めるという点でも重要な役割を果たします。
まず保存性について。糖度が高い環境では、水分活性(微生物が利用できる水の割合)が下がるため、カビや雑菌の繁殖が抑えられます。果実酢でよくある失敗は、「液面から果実が飛び出してカビが生える」ことですが、これは糖が液全体に十分に行き渡っていない場合に起こります。
氷砂糖は結晶が大きく、ゆっくりと溶けるため、瓶に果実⇒氷⇒果実⇒氷の順番に交互で重ねていくことで、上層部分でも糖が徐々に溶け出し、液全体に拡散していきます。その結果、液面近くの果実も糖に守られ、カビのリスクが下がるのです。果実酢づくりは基本的に静置するものだからこそ、放っておいても良い感じに糖が全体に広がってくれる氷砂糖が重宝されるのです。
また、風味の面でも氷砂糖は優秀です。クセが少なく雑味がないので、酢の風味や果実の香りとぶつかることなく仕上げてくれます。
では、同じショ糖が主成分のグラニュー糖では良いかというと、注意が必要です。グラニュー糖は、粒が細かく、表面積が大きいため、すぐに溶けてしまいます。これでは果実の成分をゆっくり引き出すことができません。
まとめると、果実酢づくりで氷砂糖が使われる科学的な理由は、以下の3点です。
- ❶ゆっくり溶ける:果実内の成分をじっくり引き出せる
- ❷高純度でクセがない:果実や酢の風味を邪魔しない
- ❸結晶が大きい:液上層にも糖が広がり、保存性が高まる
氷砂糖の代用品は?黒糖・パームシュガー・ザラメなど
氷砂糖の代用として使えるのは、氷砂糖と同じように、結晶が大きく、表面積が小さくてゆっくり溶ける甘味料です。ポイントは「溶けにくさ」。具体的には、以下のものが代用品としておすすめです。
- 黒糖の塊:サトウキビの搾り汁を煮詰めたもの。風味が強い。
- パームシュガーブロック:ヤシ糖。独特の香りがある。
- ザラメ:中双糖。大粒でグラニュー糖より溶けにくい。
これらは精製されていないため、独特の風味とコクを持っており、果実の香りや色に影響を与えることがあります。仕上がりの透明感や味のバランスを重視したい場合は注意が必要です。
以下は、甘味料の「溶けやすさ」を大まかにまとめたものです。
溶けにくい | 溶けやすい | 液状、または、すでに溶けている |
氷砂糖 黒糖 バームシュガーブロック ザラメ | グラニュー糖 きび砂糖 粉糖 | はちみつ メープルシロップ オリゴ糖シロップ |
角砂糖は見た目こそ塊ですが、細かな粒を押し固めたものなので、すぐに崩れてしまいます。抽出用には不向きです。もし、溶けやすいグラニュー糖しか手元にないという場合は、1日1回、清潔なスプーンなどで全体を優しく混ぜることで対応可能です。
Q. 氷砂糖は減らしてもいいの?最低限の砂糖量と注意点
ここまで、氷砂糖が果実酢において果たす役割を詳しく見てきました。では、自家製ならではのアレンジとして「甘さを控えたい」という場合、どれくらい砂糖を減らせるのでしょうか。
まず、砂糖を減らすと起こる主な変化は、以下の通りです。
- 果実エキスの抽出が進みにくくなる
- 酸味が立ちすぎて飲みにくくなる
- 保存性がやや下がる(カビやすくなる)
果実酢は、お酢の殺菌作用により発酵やカビのリスクはそこまで高くありません。ただし、高糖度液の方が、より安定した保存が可能です。
とはいえ、現代の保存環境や目的の多様化を考えれば、砂糖を控える工夫も可能です。以下に、リスクと対策を整理してみました。
- 果実エキスの抽出が進みにくくなる ⇒ 熟した果実や冷凍果実を使って抽出しやすくする
- 酸味が立ちすぎて飲みにくくなる ⇒ 飲用時にはちみつやオリゴ糖などで甘さをつける
- 保存性がやや下がる(カビやすくなる) ⇒ 冷蔵庫で保管する
現代のキッチン環境なら、冷凍果実の活用や低温保存、甘味の後付けなどを活かして、甘さ控えめで飲みやすい果実酢をつくることも十分に可能です。
甘さを控えたい方、砂糖の摂取を減らしたい方も、自分なりの工夫を取り入れて果実酢づくりを楽しんでみてください。
Q. 冷凍果実を使ったら味は変わるのか?
A. 冷凍果実を使った果実酢は、多少風味が変わります。果実を冷凍すると、細胞が壊れて、果汁が出やすくなります。ただし、果実エキスが抽出されるというよりは、ボロボロの表面から果汁が流れ出るため、雑味も出てきやすいです。
加えて、果肉自体も柔らかくなり、もろくなります。通常の漬け方ではなかなか奥まで浸透しないような種子周辺からも成分が出てきます。まるで長年漬け込んだかのように、複雑で多層的に。軽やかさよりも「まろやかな重厚感」が強くなります。
冷凍果実のメリットは、出来上がりが早くなることです。そして、冷凍しておけば、一年中いつでも果実酢をつくることができます。失敗リスクも少ないです。とくに、砂糖を減らしたいと考えている方は、試してみてください!
まとめ
氷砂糖の役割を理解すると、ただ甘くするだけでない「果実酢づくりの要」だということが見えてきます。砂糖は減らすべきか、代用は可能か、自分の目的や好みに応じて選択できるようになるはずです。
風味を引き出し、保存性を高める氷砂糖。科学的な背景を知って、あなただけの果実酢づくりが、もっと楽しく、もっと美味しくなれば幸いです。
中野 貴之
酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目
「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。
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