お酢の殺菌・静菌・防腐効果について

お酢を知ろう

お酢の抗菌効果

お酢は、殺菌・静菌力がもっとも強い調味料です。これは、お酢の主成分である酢酸の強い酸性による作用です。これを利用して、古来より、魚の酢洗いや酢漬けなどの保存食づくりにお酢は重宝されました。冷蔵設備のなかった江戸時代に、寿司が庶民の楽しみとなりえたのも、お酢の力によるものです。

お酢の重要な特性であるにもかかわらず、「殺菌」「静菌」「防腐」といった言葉は、あまり吟味されずに使われているケースが多いと感じています。今回は、これらのお酢の機能を、丁寧に解説します。

殺菌・滅菌・除菌・静菌・抗菌・防腐の定義

まず、それぞれの用語の定義を確認します。

殺菌は、文字通り、菌を殺し、死滅させることを意味します。主に、加熱処理をして腐敗菌を死滅させますが、「すべての微生物を殺すこと」を滅菌、完全ではないものの「ほぼすべての微生物を殺すこと」を殺菌といいます。また、殺すのではなく、「除去によって微生物の数を減らす」場合は除菌となります。殺菌・除菌の場合は、時間経過により、残った菌が増殖して腐敗する可能性があります。(※参考:日用品・食品の開発につながる微生物制御の基礎研究(久保田浩美)|科学と生物(日本農芸化学会)

一方、「微生物の増殖を抑える」効果を静菌といいます。微生物による食品衛生安全上の危害を大きく分けると、腐敗と食中毒の2つ。病原菌が許容できないレベルに増殖することが腐敗なので、食品の腐敗防止には、「静菌」できれば十分であるといえます。

抗菌という言葉は、業界によって捉え方が変わるそうですが、大きく2つの捉え方があります。「滅菌・殺菌・消毒・除菌・静菌・制菌・防腐および防菌などのすべて」といった微生物を制御することそのものを指す場合と、「細菌の増殖を抑制すること」という静菌に近いものを指す場合があります。

ちなみに、防腐は、「食品材料の生物による劣化(腐敗・変敗・変質)を防止すること」であり、目的を表す定義です。その具体的な手段は、殺菌・除菌・静菌、あるいは抗菌など、いずれの組み合わせでもありうることになります。

この中で、お酢の機能としてよく上げられるのが「殺菌」「静菌」「防腐」です。

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お酢の抗菌効果

HACCPの考え方を取り入れた衛生管理における食酢の抗菌力について

食酢の抗菌力の正体は、主成分である酢酸です。酢酸が多く含まれている食酢はpH値が低く、一般的な食酢の酸度は4〜22%、pHは1.8~3.8程度です。全国食酢協会中央会によるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書によると、酢酸酸度が1%以上あれば食中毒菌など病原微生物は増殖できないとされています。

また、食酢を原料として調合される加工酢の「すし酢」も、一般的には酢酸酸度が1〜4%程度あるため、この酸度であれば病原菌は増殖しません。

低い酢酸濃度であっても静菌作用を示す

お酢は、低濃度であっても強い静菌作用があります。セレウス菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオ菌、大腸菌などの食中毒菌は、わずか0.1%濃度の酢酸により静菌されることが確認されています。一般的な食酢の酸度は4%であることから、食酢の40分の1の濃度で静菌できるのです。このことから、夏場のお弁当やおにぎりには気づかれない程度の食酢が添加され、防腐に役立てられています。

食中毒の予防に重要な殺菌効果

食中毒菌に対する殺菌効果を調べた研究では、30℃・酢酸濃度2.5%という条件では、セレウス菌を除く、対象のすべての食中毒菌に殺菌効果を示すことが確認されています。(※下表参照)また、甘酢・二杯酢・三杯酢の殺菌効果も調べられています。ただの酢酸溶液よりも、食塩を添加した二杯酢・三杯酢の方が殺菌力が強いことがわかっています。また、温度が高いほど食酢の殺菌力は強くなります。

食中毒菌および一般細菌に対する合わせ酢の殺菌作用についての表

まとめると、お酢の抗菌効果については、以下の3つのことが言えます。

  1. 酸度が高いほど、抗菌力は強い
  2. ・食塩と併用すると、抗菌力は強まる
  3. ・温度が高いほど、抗菌力は強まる

調理中の火傷防止や生鮮食品の品質に影響を与えないことを考慮すると、40~50℃で殺菌すると、実用的で効果的であるとされています。

【参考文献】
腸管出血性大腸菌O157:H7をはじめとする食中毒菌に対する食酢の抗菌作用(その1)静菌作用および殺菌作用-円谷悦造ほか(1997)|日本感染症学会
腸管出血性大腸菌O157:H7をはじめとする食中毒菌に対する食酢の抗菌作用(その2)殺菌作用に及ぼす塩化ナトリウムと温度の影響-円谷悦造ほか(1997)|日本感染症学会
食中毒の原因と種類:農林水産省

お酢の殺菌作用を活かした調理法

寿司飯

ご飯に酢を少し混ぜると、夏場であっても腐らないと言われます。実際に、腐敗菌7種について、米飯に添加して、腐敗を試験した結果をみると、酸度0.12%程度で、夏場で6日間ほど。酸度0.18~0.20%程度で、10日間ほど異状がなかったそうです。美味しさを考慮すると、0.12%程度が良いと思われますが、この酸濃度は、寿司飯の酸度にほぼ一致します。(※参考:食酢の効用(板垣忠雄、生活衛生)

酢漬け・ピクルス

魚や野菜を酢漬けにすれば、腐敗せずにながく保存できます。海外ではピクルスといいます。世界中で調理される重要な保存食です。これから旬を迎える日本のらっきょう漬けは、数日間しか保存できない生のらっきょうを、酢で漬けることによって、常温で1年間保存できるしたものです。

魚の酢洗い

魚を酢で洗うと、鮮度がよくなり、肉がしまって味はよくなります。また、表面に附着している微生物も殺菌されるため、保存性が上がります。

酢酸の特性を活かし、食の安全を守りつつ、お料理を楽しんでいただければ幸いです。

中野 貴之

中野 貴之

酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目

「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。

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