酢の粕とは?お酢の搾りかす、蔵人だけが知る幻の発酵食品

「酢の粕」(すのかす)は、お酢を造る過程で生まれる発酵副産物です。日本酒を搾ると酒粕が、醤油を搾ると醤油粕が生まれるように、お酢を搾ると酢の粕が生まれます。
この酢の粕には、酢酸菌をはじめとする発酵由来の微生物、原材料由来の有機酸やアミノ酸がたっぷりと含まれています。酸味の奥にまろやかな旨味があり、独特の風味と栄養価の高さが魅力の発酵食品です。
では、なぜこれまで、ほとんど世に出回らなかったのでしょうか。
実は、多くの酢蔵では液体だけを発酵させるため、搾りかすである「酢の粕」がほとんど生じません。原料の米や麹をまるごと仕込む昔ながらの製法だからこそ、この白くなめらかな酢の粕を豊富に手にすることができるのです。
とば屋の製法は、江戸時代に粕酢(赤酢)が開発されるより前の流れをくむ伝統的なもの。
この製法を守り続ける蔵は、現代ではごくわずかしかありません。まさに“幻の発酵食品”と呼ぶにふさわしい存在です。
このたび、とば屋酢店では、この希少な酢の粕を皆さまにそのまま味わっていただけるよう、商品化しました。酸味はありつつもペースト状でまろやか。これまでにない新しい発酵食材で、あなたの食卓に新しい体験をお届けします。

2025年8月、発売予定です。詳細が決まりましたら、こちらでお知らせします。
「酢の粕」の特徴
とば屋酢店の米酢は、蒸米と米麹で仕込んだ甘酒を、種酢と混ぜて壺に入れ、静置発酵させてつくります。甘酒をろ過せずそのまま仕込み液として使うため、熟成後には桶の底に酢もろみが多く残ります。この酢もろみを搾ったものが、酢の粕です。

白くてなめらかなペースト状
米酢造りで生じた酢の粕は、乳白色の非常になめらかな質感が特徴です。ペースト状であるため、液体のお酢では使いにくいシーンでも活躍します。
- パンに塗るスプレッドとして
- 野菜スティックやクラッカーのディップとして
- 和食洋食のソースや薬味として
原材料は米・米麹・米酢だけ。動物性原料を使わないため、ベジタリアンやヴィーガン向けのメニューにもお使いいただけます。
米糀の香りとまろやかな酸味
酢の粕は、酢造りの副産物ですので、基本はお酢の味です。しかし、ほのかな米糀の甘み・うまみ・発酵香が加わることで、酸味はやさしく、深みのある風味に仕上がっています。
塩麴と見た目は似ていますが、塩気はありません。だからこそ、他の調味料と合わせやすく、少量でも料理にコクを与えてくれます。
酢酸菌が濃縮された発酵素材
酢の粕には、とば屋酢店の蔵に300年以上住み続けてきた蔵付酢酸菌の“菌体そのもの”が含まれています。近年、酢酸菌の菌体成分(LPS)には、自然免疫のバランスを整える可能性があると報告されており、酢酸菌を手軽に摂れる食品として「にごり酢」が注目を集めています。
にごり酢は、熟成を終えたお酢をろ過せず、そのまま瓶詰めしたものです。一方、今回ご紹介する酢の粕は、にごり酢の「にごり」そのもの。白くなめらかでまとまりがあるため、液体のお酢では難しかった使い方にも対応できます。酢酸菌の恵みを、より自由に楽しめる新しい発酵素材といえます。
※本品は加熱殺菌処理を行っています。酢酸菌は死滅していますが、LPSなどの菌体成分は残存しています。
「酢の粕」と「粕酢(赤酢)」の違い
「酢の粕」とよく混同されるのが、「粕酢(赤酢)」です。これらは、原材料も製法も味もまったく異なります。
粕酢(赤酢)
日本酒の製造で生じる副産物である「酒粕」を原料につくられる穀物酢です。酒粕を長期間熟成させ、水を加えてから静置発酵させます。発酵・熟成中にメイラード反応が進み、赤褐色に変化します。赤色の濃い粕酢は「赤酢」と呼ばれ、江戸前寿司などでも使われます。
酢の粕
酢を造る際、搾りの工程で自然に生じるペースト状の副産物です。米酢や果実酢など、酢の種類によって酸味や香りが異なり、とば屋の酢の粕は米酢由来で、やさしい酸味と米麹のコクをあわせ持ちます。

酢の粕は、サプリメントの原料に使われていることもあります
「酢の粕」のおすすめの使い方
【1】薬味として添える
ざるそば・そうめん・冷や麦など、麺類に添える薬味として使うのがおすすめです。わさび・柚子胡椒とは異なる酸味のアクセントが、食欲をそそります。
サバやサンマなどの焼き魚や、トロ・ウニ・アナゴといった寿司ネタなど、脂ののった魚に添えるのもおすすめです。
【2】隠し味で旨味アップ
お酢の酸味は、完成したお料理の仕上げや隠し味として使うことができます。ほんの3滴「隠し酢」を追加するだけで、酸味が甘味や塩味と相互作用を生み出し、味に深みを与えてくれるのです。
3滴が難しいという方は、ペースト状で扱いやすい酢の粕をご活用ください。味噌汁・煮物・鍋など、普段のお食事に少量加えることで、うま味を底上げすることができます。
【3】生クリームと混ぜて
実は、酢粕は生クリームとの相性が抜群です。意外な組み合わせに感じるかもしれませんが、乳成分が酸と反応して、チーズクリームのような風味に変化します。デザートとしてもご利用いただけます。
発酵の恵みを、現代の食卓へ
酢の粕は、これまで蔵人しか味わえなかった発酵の副産物です。とば屋酢店では、この貴重な素材を未活用資源と捉え、うま味・まとまり・香りを活かした新しい発酵調味素材として商品化しました。
まずは薬味として。
次に隠し味として。
慣れてきたら、自分好みのアレンジをぜひ探してみてください。
ひとさじの酢粕が、料理に奥行きを与え、食の探求心をくすぐるはずです。
中野 貴之
酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目
「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。
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